酒場のカリスマ・吉田類氏が名付け親となり、 酒場好き編集者が、酒場をめぐり、酒場を語るときにだけ許された酒場ネーム、それが吉田マッスグ。その吉田マッスグが東京を中心とした酒場をそのスペシャリテともに紹介。空間、大将、女将、酒、ロケーション……。酒場のスペシャリテは料理だけにあらず!
カウンターにはアクリルボードが置かれ、いまはコロナ前のように飲めなくなってしまったが、吉田マッスグが懐かしの酒場を回想していく。
やきとん 千登利【東京都・池袋】
池袋は駅西口のロマンス通りにある『やきとん 千登利』。この店を紹介するならもう少し早いタイミングがよかったかもしれない。せめてあと1ヶ月早ければ、それは『やきとん 千登利』のベストシーズンだったはずだ。
その理由は名物の「牛肉豆腐」にある。カウンターの目の前でくつくつと火にかけられた鍋は、席に着くなり、そのいい香りで酒飲みに「食え」と誘ってくる。オーダーすれば、じっくりと煮込まれた牛肉を従え、豆腐が白皿(なんと特注のグラタン皿!)に盛られ登場する。この豆腐の塩梅が実によい。大豆の旨味や風味を残した豆腐は、甘すぎず辛すぎない汁と、そこに染み込んだ肉の旨味をたっぷりと吸いつつも、しっかりと豆腐であることを主張してくる。変な言い回しだが、こなれておらず、それでいて一体感があるのだ。
それを熱々のうちに頬張り、間髪入れずに燗酒を流し込む。その瞬間たるや!! 寒い時期に『やきとん 千登利』を訪れるべき理由はここにある。
そして、もうひとつの理由は、生で供される「蕪」。ここでは「牛肉豆腐」の付け合わせ的にこの「蕪」をつまむ。産地はその時々によって変わるが、やはり蕪は寒い時期が甘くジューシーで旨い。牛肉豆腐→酒→牛肉豆腐→蕪→酒……。この無限ループは、とにかく寒い時期が最高なのだ。
もちろん、戦後の闇市時代から続く店であるからしてやきとんだって旨い。雑多なロマンス通り沿いにあって店の雰囲気も風格があり、女将の存在も(早めの時間しかいない)そこはかとない品を生み出している。
それらを差し引いたとしても、冬に味わう「牛肉豆腐」と「蕪」は、これ以上ない至福であると断言したい。といいつつ、これから温かくなる季節に額に汗を浮かべながら味わう「牛肉豆腐」とビールも、それはそれでたまらないのだが……。
<店舗情報>
<店舗情報>
東京都豊島区西池袋1-37-15 西形ビル1F
営業時間:16:30~22:30、土日祝16:00~22:30
定休日:月曜
※写真はコロナ前に撮影されたものです。
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