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TRIP

海外のアーティストも惹きつける有田の魅力これからの有田焼について

前回お話しした私がアートレジデンスでお世話になった幸楽窯さんですが、なんとも国際色豊か。そもそも私が幸楽窯さんの事を知ったのもニューヨークで偶然目にしたアート系サイトの記事だったわけですが、トレジャーハンティングにも海外からのお客さんが多く、アートレジデンスでも大体海外から来られている方々が主体でした。

当時幸楽窯さんでレジデンスのコーディネーターをされていたブラジル出身日本語ペラペラのピメンタさんを筆頭にスーパーでよく目にしたあの人も、自転車ですれ違ったあの人もなんだかキャラの濃い人(いい意味で!)が多いなーと言うのが強い印象でした。流石に街ゆく外国人の方に声を掛ける勇気はありませんでしたが、レジデンスで来られている方々に聞いてみると面白いくらい違ったバックグラウンドでもちろん出身地も様々ですが有田ラブなところだけ一緒で、この人たちを惹きつける魅力ってなんなのだろうと思ったわけです。

そんななか取材で昨年再度有田を訪れた際に、現在幸楽窯さんに勤務されているカナダ出身のアーティスト、ジェレミー•パレ•ジュリアンさんにお会いして、彼女が幸楽窯の徳永社長の協力の元手がけるいくつかのプロジェクトのお話を伺って来ました。

カナダ出身のアーティスト、ジェレミー•パレ•ジュリアン

ジェレミーさんはカナダのケベック州モントリオール出身、絵画の学士号に加え美術史の修士号、アートセラピーにも精通する専門家。陶芸作家としても20年以上活動されている傍らモントリオール美術館でもアーティストとの仲介人として勤務されていました。

初来日は2017年、東京の金継ぎ職人さんのもとで研修滞在されていた時に海外作家と国内の工芸士の連携を仲立ちする会社『たけとんぼ』を運営するミッキ•タムさんと出会い、そして彼女と九州を周った際に有田を初めての訪問しました。

その時に練り込みと言う色々な色の粘土を組み合わせて模様を作る技法に出会い、翌年改めてアートレジデンスとして今度は5ヶ月(羨ましい!)練り込みを学んだそうです。

その滞在中に幸楽窯の徳永社長と出会ったのが今に至るきっかけだと言うことですが、なんというか彼女の行動力はさることながら、行く先々での人との出会いに導かれるようで面白いですね。

Mimizuって何?

Mimizuプロジェクトとは、ジェレミーさんが幸楽窯さんの協力のもとで発案した最初の作品プロジェクト。

アイデアを得たきっかけも初めて幸楽窯を訪れた時に30年以上使われていない裏山の社宅後地で目にした古い磁器の山だったと言います。

一見何の損傷もない器達ですが、「使いものにならないよ」と言われて不思議に思ったそうです。

有田では上絵つけの過程で磁器を2度焼きする際に稀に表面に浮き上がる淡い茶色のヒビのような跡の事を”みみず”と言って、これが出てしまうと売り物になりません。

”みみず”には発現条件があって、それは長年雨風に晒される事です。それも湿気の多い環境下で気温が氷点下にならない等、ドラクエの隠しイベント並に限定されているのです。

もっと詳しく言うと、水分や不純物が釉薬(焼き物の表面のガラス質コーティング)と磁器生地の間に入り込んで起こるのですが、鍾乳石の様に長い年月をかけて少しずつ進入した成分が作る模様が再度焼成するまで見えない上に一つ一つユニーク。普通はあまり歓迎されない現象ですがアート的には面白さ満載です。

幸楽窯にはこの条件に合った”みみず”候補の古い焼き物が沢山眠っていたのです。

佐賀県窯業技術センターでの分析の結果、”みみず”が出てしまった焼き物は磁器の生地自体に損傷はなく、使用するのにも問題がないことが分かり、このことに可能性を見出したジェレミーさんは、一旦カナダに帰国したもの再来日し幸楽窯で働きながらMimizuプロジェクトを始動しました。

2つとして同じものがない”みみず”の模様を活かして、その一部に金継ぎの様に上絵付けでジェレミーさんならではの美しいアレンジが加わります。敢えて色を付けず”みみず”の線のまま残してある部分もあるのがユニークな表情をプラスしています。

裏山に眠っていた磁器の中から”みみず”が出たもののみが使用されるので、形にも数にも限りがありどれも一点もの。

忘れられていたものを、忘れられないものへ

「普通なら廃棄されてしまう磁器がMimizuプロジェクトによって生まれ変わる。好奇心旺盛で新しく柔軟な方針の徳永社長の協力のおかげだ」とジェレミーさんは言います。

裏山で眠っていた磁器が長い年月をかけて自然の力でそれぞれの個性を得て、そこにジェレミーさんの感性が加わりまた新たな輝きを放つ。

それには”忘れられていたものを、忘れられないものに”という思いも込められています。

Mimizuプロジェクトの作品は有田町ふるさと納税の返礼品にもなっているので要チェックです。

<有田町ふるさと納税の返礼品>

https://www.furusato-tax.jp/search?display_company_name_row1=ジェレミー+パレ+ジュリアン&city_code[]=41401&is_target_companies=1

そのほかにも、幸楽窯の製造過程で出てしまう2級品に金の上絵付けを施した作品や、オリジナルの絵付けをした磁器製ジュエリーなども製作されています。

次なるプロジェクト、トレベルタンブラーの誕生

Mimizuプロジェクトにひと段落がつき、次なる作品の案を練っていた頃、街づくり公社でもお仕事をされていたジェレミーさんはそこで、有田を含むもっと広い肥前地区の焼き物の歴史を学びました。

そうこうしている間にコロナ禍でカナダに戻ることができなくなってしまい、どうにかして彼女のこれまでの体験と学んだ知識を周りに発信出来ないものかと考え生まれたのが、次なるプロジェクトのトラベルタンブラーです。

肥前を代表する5つのエリアの歴史を象徴するデザインを施した磁器性のタンブラーなのですが、シリコンのキャップが付いているので保温も効いて持ち運びもできる優れもの。しかも面白いのが、徳永社長の発案でカップの裏に付いているQRコードがインスタグラムのページに連結していて、購入した人が先々でそれぞれアップしたタンブラーの写真が見れるのです。

富士山のほとり山中湖畔で佇むタンブラーから国外ではインド、まさかのコンゴまで肥前地区から遥か彼方に旅しているタンブラーが楽しめます。実は私も一つ持っているのですが、出先のコーヒーショップにカップ持参で行って入れてもらえるのでエコな上に、朝、工房に行くときや午後の休憩時にちょいと出てコーヒーを淹れてもらい近くの公園で一息つく時など、結構重宝しています。

SNSを通じて焼き物とそれに携わる人、そしてその周りの人とを繋ぐアイデアは簡単に会いたい時に会いに行けない今にぴったりですね。

ジェレミーさんにとっての有田の魅力

最後にジェレミーさんにとっての有田の魅力を聞いてみると、「引き寄せられた理由は文化的に豊かな歴史だけではなく、ここにいる人たちだと最近分かった」と言っていました。

これまでの彼女の足取りを見てみても、良い出会いに溢れていて、出身や文化的背景は違っても、美しいとか面白いと思う事は共通で、言葉の壁なんてものはちょっとした柵程度なのかもしれないと思いました。

彼女も日本語は来日してから学んだそうです。

いくつかのプロジェクトを同時進行で新しい事にもチャレンジしているジェレミーさんは、取材でもキラキラ輝いていて見えました。

「興味の赴くまま」「行動あるのみ!」ですね。

他にも陶芸が盛んな地域は沢山あってどこにでも簡単に移ることはできる中で、有田での出会いとその人々が作る地域の魅力こそが彼女を惹きつけるのでしょう。

https://kourakukiln.easy-myshop.jp/c-fpage?fp=TT_intro01

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