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CULTURE

今日からあなたも“うつわ”の虜!

そのためには“うつわ”を楽しむこと!

今回、“うつわ”に関する執筆の依頼を受け、これまでの人生を振り返ってみると、美術大学進学のために単身アメリカに渡り、ニューヨークで生活する様になって今年で24年目。早い物で人生の半分以上をニューヨークで過ごしていることにビックリすると共に、これまでよく路頭に迷う事なくやってこれたものだと、なんだか感慨深いものがこみ上げてきました。

美術大学ではプロダクトデザインを学び、卒業後は生活雑貨や食器デザインの仕事に携わってきました。デザインするだけでは物足りなくなり、13年前から陶磁器の作り手としての活動をはじめました。現在はブルックリンにスタジオを構えて日々制作活動に励んでいます。

好きが高じて焼き物に囲まれた生活をしている訳ですが、今回の連載を通して、生活の一部、また工芸品、美術品としてある”うつわ”の魅力、楽しみ方をうつわファンの一人として、皆さんにお伝えしていきたいと思います。

“うつわ”に魅了された私のターニングポイント

私のうつわ熱は美大生の時に、授業でセラミックに出会い、バウハウス※1 やミッドセンチュリー※2の陶磁器の機能美に魅せられた事から始まりました。

それまでも、暮らしを共にする食器や花器へのこだわりはありましたが、ただ漠然と惹かれるものを選んできたので、「なぜ、その器が好きなのか?」と言うことをあまり深く考えたことはなかったと思います。

ミッドセンチュリーデザインの器は、余計な装飾を排除したシンプルなデザインでありながらも、機能的な美しさを持ち合わせ、ただミニマルなだけでなく色彩や形の特性、素材の知識があってこそ生まれる物であり、まさにバウハウスが掲げる「Form Follows Functionじゃないか!」と感銘を受けたのを憶えています。

一度興味を持ってしまうと自ず収集熱が上がってしまう性格なので、ebayやフリーマーケット、クラフトマーケットで見つけたうつわのコレクションはミッドセンチュリーの枠を越え、誰がいつ作ったのかわからない物にまで広がり、そうこうしているうちに日本の骨董のうつわにも興味が出て来ました。

日本へ帰国するたびに骨董市や古道具屋を廻り、集めたうつわを眺めることで心が満たされる・・・・。

ここまで来るともう歯止めが効かなくなって、今では伝統工芸品や作家の作品にも収集の幅は広がり、ただ集めるだけてなく、作られた背景に興味を持ち、知った上で見えて来る魅力にも気付いてしまいました。

※1バウハウス 1919年ドイツ中部の街ワイマールに設立された美術学校。1933年に閉校されるまで工芸、写真、デザイン、美術、建築など総合的な教育を行いモダンデザインの基礎を作った。
※2ミッドセンチュリー 1940〜60年代、第二次世界大戦中の軍需産業が生み出した技術の発展によって家具、インテリア、建築など様々な名作が生まれた時代。

“うつわ”の楽しみ方いろいろ。
オススメは『探す楽しみ』

楽しみ方は多種多様で、「これこそは!」と一つに決める事は出来そうにありませんが、すぐに思いつ楽しみ方は、『集める』『飾る』『料理にあわせる』『歴史を知る』『自分で作ってみる』などと色々出てきます。

何より外せないのが『探す楽しみ』ではないでしょうか。

焼き物フェアやライフスタイルショップなどで、「何か良いものに出会えないかな?」と出掛けてみる時のワクワク感、思いがけず素敵な器に出先で出会った時の興奮、そして購入をとまどってその場は踏みとどまってみたけれども、後々、忘れられずにお店に改めて出向いたにも関わらずSOLD OUTだった時のショックと後悔。以前、デパートの催事で見つけた骨董のお碗セットを買わなかった自分にがっかりした事を今でも鮮明に覚えています。「あの時のお碗はどんな人が大切に使っているのかな?」などと考えてしまう・・・もはや恋愛ドラマです。

様々な出会いを経てウチにやってきた器たち、これはあそこのフリーマーケットに行った時、これは実家近くの骨董屋で、あの時は店主の話が長かった、と手に取るたびに思い出付きで、いまなお楽しませてくれています。

暫く前に火が付いたニューヨークのうつわブームでは、人々の暮らしを見つめ直す考えが広がり、作家のうつわを置くショップも増えてきました。おかげで、細部にまでこだわり抜いた作品も格段と購入しやすくなりました。

作家もののうつわには、いわゆるデザイナーものとは違う魅力があり、技法や素材の違いは勿論のこと、手仕事なだけにその人にしか出せない個性が見える所が何より面白いと思います。

クリエイターと職人のコラボ品や伝統工芸品も増えてきたので、使っても楽しめる等身大レベルでの芸術品も手に入りやすくなりました。

美術品と実用品の垣根

民藝運動※3は、美術品としてのうつわより、無名職人の作品にスポットを当てた”用の美”を説いていましたが、私は美術品と実用品の垣根は曖昧でいいのではないかと思います。

飾って鑑賞して楽しむだけでも大いに結構だと思う一方で、私は使わずにいられない性格です。

私が子供の頃、母が譲り受けてきたガラスケースに入れられたフランス人形の髪を、三つ編みにして母のことをガッカリさせた事があります。綺麗にカールして整えられていたナイロン製の髪は、それはそれはボサボサになり元に戻る事はありませんでした。しかし、心は大いに満たされていた事を憶えています。

幸いうつわは、使っていく事でダメになる物ではなく、割れてしまっても金継ぎによって美しく生まれ変わることも出来ます。

以前宿泊した京都の老舗旅館では、金継ぎされた骨董の器が灰皿として設えてあり、何げない生活の一部に存在感を与え、潔い贅沢だと感動したのを思い出します。

それぞれ思い入れのあるコレクションを玄関先や床の間に飾って楽しむ。考えただけでテンションが上がります。

残念ながらニューヨークのアパートには床の間はもちろん、玄関先すらないので、必然的に使いながら楽しむ事が多くなってしまいます。

バスルームの石鹸入れだとか、キッチンカウンターに置いて野菜や果物を入れたり、スポットライトの当たる主役としての場所ではありませんが、それでもその時の気分や季節にあわせて、置き変えてみたりしながら、普段の暮らしに彩りを添える役割を担ってくれています。

※3民藝運動 柳宗悦を創始者に濱田庄司、河井寛次郎らとともに暮らしのなかで生まれた「美」の価値を多くの人に伝えるために、「民衆的工芸(民藝)」という造語を用いて始められた運動。

特に食卓はうつわが活躍する格好の場所。

「今日はあのお皿でパスタにしよう!」と言った具合に我が家ではうつわによって作る料理を決めたりもします。

そんな事を踏まえて、次回は『食とうつわ』についてもう少し深く取り上げていきたいと思います!

朝食を彩るうつわの数々

民藝運動に興味がでたら、柳宗悦が民藝運動の一環として初代館長として開館した日本民藝館に足を運んでみるのもオススメ。ただし、現在改修工事のため、2021年4月3日までは休館しています。また、2006年に復元された旧邸宅も毎月第2・3の水・土曜日に公開されていましたが、現在感染症予防のため、公開が身合わせになっています。お出かけの際は、ホームページなどでご確認ください。

information

日本民藝館(https://www.mingeikan.or.jp
住所:東京都目黒区駒場4-3-33
電話:03-3467-4527
開館時間:10時〜17時
休館日:月曜休館(祝日の場合は開館・翌日休館)、年末年始、陳列替え等に伴う臨時休館有り
入館料:1,100円(大人)、600円(大高生)、200円(中小生)

写真・文:Michiko Shimada

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