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TRIP

トレジャーハント〜 白磁の聖地有田へ、アートレジデンス体験〜

伝統工芸、そして産業としての焼き物について。

有田焼に注目して私の体験をもとに少しお話していきたいと思います。有田焼といえば陶芸に詳しくなくても一度は耳にした事がある方も多いのではないでしょうか。

日本に数ある焼き物の産地の中でも400年の歴史を誇り、白く透き通った磁器に色鮮やかな飾りを施した器で有名な有田は佐賀県北部に位置します。古くは鍋島藩の統治下であった地域であり伊万里焼とも呼ばれています。そんな有田は焼き物好きの私にとっては磁器の聖地、磁器とはガラス質を多く含み、白く透き通る様な質感を持った陶土の事を言います。

1616年に朝鮮から来訪した陶工の李参平(り さんぺい)が有田の泉山で陶石を発見し、それを元に日本で初めての磁器が誕生しました。現在は泉山ではもう採石が行われていないので、熊本県の天草で採石された陶石が使用されています。

私はニューヨークを拠点に自分の陶芸作品を作ったり、顧客から依頼を受けたカスタムメイドの陶磁器製の商品を製造したりしているのですが、自分の職業を聞かれたときに陶芸家と言うのはしっくり来ないと言いますか、商業デザイン業出身で師匠がいない私にはなんだか恐れ多く敷居の高い響きでありました。そんな有田と言えば伝統工芸の高み、素材となる磁器は自分の作品でも好んで使っているだけにいつかは行ってみたいなと思う憧れの場所でした。とはいえ、普段生活しているニューヨークからは遠過ぎて、「いつかオーロラを見てみたい!」と思うのと同じくらいの実現度レベルだったと思います。

幸楽窯との出会い

3年ほど前、いつも見ていた陶芸系のサイトで気になる記事を発見してテンションが上がりました。それは、幸楽窯という創業150年の有田焼の窯元さんが企画運営している『トレジャーハンティング』というイベントの記事でした。それをみた私は、「これは面白そう!」と行ってみたいと、有田に行きたい度が一気に高まりました。

幸楽窯についてさらに調べていくと、幸楽窯ではアートレジデンス(※1)もやっているとの事でワクワク度が一気に振り切り、何とか実現できないかと夢見る事から一歩先を考えるきっかけになりました。それから1年ほど後に、何とか長期滞在の予定を空けて幸楽窯でのアートレジデンスが実現しました。

※1 アートレジデンスとは長期滞在して作品制作に集中できるなんとも魅力的なプログラム

行き当たりばったり

自分でスケジュール調整ができるのは自営業の良いところなのですが、1ヶ月もの長期で時間をあける為に、かなり仕事を詰め込むことになった私。帰国当日は徹夜明けで何とか飛行機に乗り込んだ感じで、下準備が何もできないまま有田に向かうことになりました。

アートレジデンスとは先ほど(※1)でも書きましたが、新しい技術や手法を学びながら長期滞在で作品作りに没頭できるプログラムで、私の場合は幸楽窯さんで、有田焼の素材、工程について学び作品を作りながら滞在しました。

当時はブラジル出身の陶芸家ピメンタさんがレジデンス担当をされていて、滞在するアーティストの日々をサポートしてくださっていました。

宿題を忘れた子の言い訳っぽいですが、『下手に前もって知識を学ぶより実際に行って、現地で見てから、何が出来るのか、どんな作品を作りたいのか考えればいいか』と何とかなるでしょスタイルでいよいよアートレジデンスが始まりました。

刺激的な毎日

初めて訪れた有田は田舎出身、田舎大好きの私にとって、何とも落ち着く雰囲気であり、そのうえ町全体が焼き物に溢れたまさにパラダイス状態。7月の中旬でこれから夏本番かと思いきや、その年はまだ梅雨真っ只中、久しぶりに味わう日本の湿度を正直舐めていました。それでも時折現れる晴れ間を見計らっては何の知識もない状態だった私はまず、歴史から知ろうと史跡、博物館巡りを始めました。

初めは内山と呼ばれる地区に位置する陶山神社へ向かいました。やはり、焼き物の神様へ参拝は外せません。拝殿へ向かう長い石段を登るとなんと磁器製の鳥居が!流石、焼き物の街です。全体に藍色の唐草模様の装飾が施され圧巻の存在感。他にも奉納された大水瓶など境内の至る所に焼き物が溢れ早くも写真撮りまくり。

そして次は冒頭でも触れた李参平によって発見された採石場、泉山へ。今では掘り尽くされてしまっていますが、すぐ近くまで行って足元に陶石を見る事ができます。その後に向かった天狗谷窯跡はかつて磁器が焼かれた数ある登窯の跡地の一つ。

登窯とは山の斜面を利用した窯で、薪を燃料に熱が上に効率良く登っていく仕組みです。幅が3~8m、長さは50m以上もあったと言われていて、焼成時間はなんと3日!さらに冷ます時間が同じく3日ほどかかるので、電気、ガスのない時代に絶えず薪をくべ温度を保つのはさぞかし大変だったのではないでしょうか。

九州陶磁文化館ではかつて輸出された特級品の豪華絢爛な磁器も展示されている上に、古陶磁から現代の作品に至るまで大満足の展示数で、3日くらいはいれそうだなと思ったり。

ニューヨークにあるメトロポリタン美術館でも見た磁器の作品がここの採石場で取れた土で、この登窯(跡地)で焼かれ、遠いヨーロッパまで海を渡ったのかと考えると、当時の様子をうかがいい知れる気がして何とも言えない気分になりました。他にもヨーロッパから訪れた商人たちが拠点として使っていた異人館も復元され、一般公開されているので九州陶磁文化館は見どころ満載、宝の宝庫でした。

歴史に想いを馳せホクホクした気分になった後は、町に点在する窯元さんのショールームや作家さんの工房を周り、現代にまで受け継がれ進化した技術や新開発の素材などに刺激を受け、早くもお腹いっぱい状態。

沢山のインスピレーションをもらい、いよいよ私の作品作りが始まりました。

いよいよ始まったアートレジデンスでの作品作り

一応、陶芸を生業にしているので基礎知識はありますが、土の感触からそれぞれの工程まで、全てが今までとは違って勝手が分からず、学ぶ事が多すぎて落ち着く暇がありません。時折出現する手のひらサイズの蜘蛛や見た事のない虫が緊張感をさらにプラスしてくれます。

有田は町全体が一つの大きな工場の様になっていて、陶石を砕いて粘土にする土屋さん、鋳込みに使う石膏型を専門に作る型屋さん、鋳込みの過程だけを行う生地屋さん、絵付けを行う赤絵屋さん、などそれぞれの工程ごとを専門にする分業制になっています。全ての工程を一か所て行う窯元さんもありますが、注文が混んでいる時などは外注することもあるそうで、職人さんとのネットワークが密に張り巡らされ、流石焼き物の町です。

幸楽窯のゲストハウスに滞在しながら朝から夕方まで工場の方々に色々教えて頂きながら制作活動に明け暮れる毎日。工場の皆さんには作業の合間にも質問に答えて頂いたりコツを教えてくださったり、休憩時間にはお茶を頂きながら有田弁講座で盛り上がりました。連日の雨に加え窯に火が入っている時はサウナ状態でテキパキ作業をこなされる皆さん、私は何もしなくても汗だくバテバテ状態でしたが1日の作業が終わった後のビールの味は格別でした。

石膏型を使った鋳込みで作品を作ることに決めた私は、少し離れた所にある型屋さんの元で型作りの手解きまで受けさせて頂く事もできて、豊富な知識と経験、技術、皆さんの手厚いサポートに感激しきりでした。

ここまで博物館や作家さんのショールーム、幸楽窯さんで作られている数々の磁器を見てきて私にとっての有田焼の魅力とは、なんと言っても素材の美しさ。今回の作品はどうしても磁器の滑らかさ、透明感を前面に持ってきたいと思ったので、釉薬(磁器の表面に施すガラス質のコーティング)はごく薄い青磁に、シンプルな色合いの分形に拘って作り上げました。こんなにも一つの作品作りに集中してできる事は今までなかったので、思い入れの詰まった第一弾で早く次も作りたくてウズウズです。

幸楽窯のレジデンスプログラムは国内外様々なジャンルのアーティストから人気で私の滞在中にも、何人か短期で訪問された方々との出会いもありました。併設されているゲストハウスを利用される方も多かったので、食事を一緒にしたり部活の合宿的なノリでなんだか懐かったのを思い出します。アメリカのニューメキシコ、オーストリアのウイーンからの方とは未だに連絡を取り合う仲で、国際色豊かな交友関係にも繋がって何にも変えがたいものになりました。

次回は海外のアーティストも惹きつける有田の魅力とこれからの有田焼についてのお話し、後編に続きます。

文:Michiko Shimada 写真:Makoto Shikuya(Fede)/Daisuke Kinoshita(PLTRA inc.)

【information】

幸楽窯(徳永陶磁器株式会社)
住所 〒844-0023 佐賀県西松浦郡有田町丸尾丙2512
TEL:0955-42-4121 FAX:0955-43-2627
HP: https://kouraku.jp.net
【トレジャーハンティング】
開催時間:毎日10時・13時開始
※平日は当日連絡可能、土・日・祝日の申込は前日15:00まで必須
料金:5,500円と11,000円の2種 ※税込み
   オプションで工場ツアー(お一人様¥1,100税込み)も受け付け
所要時間:〜2時間
予約受付:Tel 0955-42-4121(幸楽窯:トレジャーハンティング受付係まで)
詳細はHP(https://kouraku.jp.net/experience/hunting/)でご確認ください

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