古今東西、ワインラベルのデザインには様々なモチーフが採用されてきました。中でも根強い人気を誇るのが、猫をあしらったデザインです。
日本の “猫ラベル”ワインで注目なのは、宮城県のワイナリー Fattoria AL FIORE(ファットリア・アル・フィオーレ)の “ネコ”シリーズです。全部で7種類の “猫ラベル”ワインがあり、それぞれに猫の名前がつけられています。つい “ジャケ買い”したくなるキャッチーなデザイン、ネーミングばかりなのですが、注目する理由はそれだけではありません。
Fattoria AL FIOREを立ち上げた目黒さんは、もともと宮城県でレストランを経営していた料理人。東北の地で “食”にかかわりながら生活をするなかで「東北を日本のワイン銘醸地にしたい」と強く思うようになり、ワイナリーを立ち上げたのだそう。そこで造られるワインにはたくさんのこだわりがつまっており、なんとも味わい深いのです。
“ネコ”シリーズをはじめとするFattoria AL FIOREのワインの美味しさの秘密は何なのか、目黒さんにお話をうかがいました。
文化は一代にしてならず!100年先を見据えたワインプロジェクト
「仙台市内で創作イタリア料理店を営むかたわら、ずっと地域に恩返しをしたいと考えていました。」と目黒さん。料理人として食材に向き合うことで、地方の一次産業がかかえる様々な課題にも目が向くようになったといいます。
ワイナリー立ち上げの一番のきっかけは、2011年に発生した東日本大震災です。目黒さんの地元は福島県新地町、震災による原発事故の影響を強く受けた地域のひとつです。そういった背景も手伝って、「東北のためにできることを実行したい」という想いがより一層強まったのだそうです。イタリア料理店でシェフをしていた目黒さんは、ごく自然な流れでワイン造りの道に足を踏み入れました。
「ただワインを造るだけではなく、ワイン造りを通してより多くの人に郷土文化を知ってもらう機会を提供したいと考えています。例えば、ワインラベルには地元産の和紙を使っています。ワインの醸造施設は廃校になった小学校の体育館を活用していますが、東北産の木材を使い在来工法(日本の伝統工法から発展した木組みの建築技術)によるリノベーションを施しました。このように、うまく郷土文化を取り入れることにこだわっています。」と目黒さん。
ワイン造りには “テロワール”(注)が重要と言われます。一般的にはぶどう樹をとりまく土壌、気候、地形を指す言葉ですが、Fattoria AL FIOREではそこに “郷土文化”も含まれると考えます。長い歴史の中で育まれた文化は、その土地に馴染む無理のないものであるはず。そういった文化を取り入れて造られるワインは、その土地の良さをめいっぱい反映した味わいになると信じているのです。
「郷土文化に寄り添うワイン造りを100年先まで続けたいです。そのためには次世代のワイン生産者の育成にも力を注ぐ必要があります。文化は一代にしてならず。時間をかけて育てていく覚悟です。」そう語る目黒さんの言葉には、力強い情熱が宿っていました。
注: “テロワール”とは、「農作物の産地の特徴」を指すフランス語です。“テロワール”には、その土地の土壌や気候などが含まれます。ワインの原料ぶどうのほか、コーヒー豆やお茶っぱなどにも使われる言葉です。(例)「このワインの味わいにはフランス ボルドー地方のテロワールを感じるね。」
ラベルデザインに隠されたワイン造りへの想い
上下ツートンカラーで、ラベル右端にロゴ、生産年、ワイン名が縦に配置されているデザイン。これが、Fattoria AL FIOREのラベルデザインの基本形です。
目黒さんによると、「ツートンカラーの下部分は大地、上部分は空、ロゴは大地に根ざす花を表しています。ワイナリー名の “AL FIORE”は、イタリア語で “一輪の花”という意味。この土地で育った花が頭(こうべ)を垂れて種を落とし、生命が循環していく様子をデザインしてもらいました。ワイナリーを代表するフラッグシップシリーズのワインにはすべてシリアルナンバーが印字されているのですが、花が落とした種を数字に見立てているんです。」こうした考えは、ワイン造りにも反映されています。
Fattoria AL FIOREのワイン造りには “アンフォラ”と呼ばれる素焼きの壺が使われています。「ぶどうはその土地のミネラルを吸って育ちます。アンフォラの原料は粘土なので、ミネラルの塊と言えます。アンフォラとぶどう、ミネラルをベースにしているものどうし共鳴しあい、より自然な味わいのワインができるんです」と目黒さん。人工的な素材では表現できない味が醸し出されるといいます。
ワインの製造過程で “フィルタリング”(発酵に使われた酵母などを取り除く作業)を行わないのも、こだわりの一つ。「私たちのワインはぶどうの果皮等に付着している野生酵母のみで発酵しています。ぶどうと共に春夏秋冬を経験した酵母は、ワインの味わいを形作る大切な一部なんです。この土地で育まれたワインの全てを味わって欲しいので、フィルタリングは行いません。」と目黒さん。
ミネラルや酵母など、自然の中にある素材を生かして無駄にしないワイン造りは、“生命の循環”を大切にしているからこそのこだわりなのです。
料理人の発想で紡ぎだす味わいのバランス
多くのワインは複数のぶどうをブレンドして造られます。そうすることで味が安定するからです。Fattoria AL FIOREでもぶどうのブレンドを行いますが、同じワインでも生産年が異なると、使うぶどうの品種やブレンドの比率が異なります。味を安定させることが目的なら年によってぶれてはいけない気がしてしまいますが、何かわけがあるのでしょうか。
目黒さんに問いかけると、こう答えてくれました。「もともと料理人なので、 “バランスのとれた味わいをつくるために最適な素材を使って調理する”という発想でワインを造っています。一方ぶどうは生き物です。毎年まったく同じものが獲れるなんてあり得ません。だから、素材の状態を見ながらブレンドする品種や比率を調整することが重要なんです。」
例えば、雨が多い年にはぶどうの完熟度が低く、ワインにボリュームが出にくくなります。その場合、完熟度の高い別のぶどうをブレンドしてボリュームを補うのだそうです。決してぶどう以外の添加物を入れたりはしません。あくまで、使うのはぶどうだけ。
「農家さんは毎年その年のベストなぶどうを納品してくれます。私たちはいただいた素材を最高のワインに仕上げるのが仕事で、それが農家さんの想いに応えることにもつながると考えています。」と目黒さん。安定した美味しさを支えているのは、質の高いぶどうと料理人の感性なのです。
“ネコ”シリーズ末っ子ワイン「HANA」と秋の味覚の共演
今月の1本は、Fattoria AL FIOREの“ネコ”シリーズより “末っ子ワイン”の「HANA」です。前述のとおり、“ネコ”シリーズ7種類のワインには全てに猫の名前がつけられていますが、それらは目黒さんが実際に生活をともにしている7匹の猫の名前に由来しています。猫たちとは街中や畑で偶然に出会ったという目黒さん。HANAはその中で一番末っ子の猫なのだそうです。
ある寒い冬の日のこと、以前経営していたレストラン近くのコンビニ前にいた子猫がHANAでした。幼いころのHANAはとても人見知りする猫でしたが、7匹の中でお父さん的風格の猫にはよくなつき、甘えん坊な一面も見せていたのだそうです。猫らしい “ツンデレ”な性格でとてもチャーミング。そんなHANAの名前をつけられたワインは甘酸っぱくチャーミングで、まさにHANAの性格を表したような味わいです。
写真は2017年ヴィンテージのもの。ラベルデザインはご覧の通り、パステル調で可愛らしく、子猫のHANAの性格が表現されています。ラベルデザインは毎年変わり、ちょうど先日(2020年9月時点)リリースされた最新2019年ヴィーンテージのラベルは、少し成長したHANAの様子がうかがえるデザインです。気になる方はぜひチェックしてみてください。
グラスに注ぐと、少し濁りのある深いピンク色のロゼに秋ムードが高まります。夏に飲むロゼとは違い、少しメローな雰囲気を感じます。鼻を近づけると薔薇やハイビスカスのようなフローラルな香りと甘いベリーの香りを感じ、茶目っ気たっぷり。口に含むとまるですだちのような風味豊かな酸味を感じ、食欲がそそられます。
Fattoria AL FIOREの公式Facebookで「これからの季節に、サンマの塩焼き(鮮度の高い内臓付きの)にぜひ!!茄子の揚げ浸し、アンコウの共和えなどなど、秋の味覚と合わせてみてください!!」と紹介されているように、秋の味覚にあわせて楽めるワインです。特にサンマの塩焼きとの相性は抜群。ワインをすだち代わりに飲むのも良いですが、実際にすだちを絞ったさんまにワインをあわせると、より一層味わいがマッチして美味しさを堪能できます。
この秋、食卓に並べる1本として手にとってみてはいかがでしょうか。
おすすめペアリングレシピ
爽やかな酸味と飲みごたえのある味わいを兼ね備えるHANAにあわせるなら、しっかりと味付けされたシーフード料理がおすすめ。本格的なのにご家庭で簡単に試せる、こちらのレシピにトライしてみてはいかがでしょうか。
ワイナリー紹介
Fattoria AL FIORE(ファットリア・アル・フィオーレ)
所在地:宮城県柴田郡川崎町支倉塩沢9
電話番号:0224-87-6896
営業日:土曜・日曜、祝日
公式サイト:https://www.fattoriaalfiore.com/
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