酒場のカリスマ・吉田類氏が名付け親となり、 酒場好き編集者が酒場をめぐる、酒場を語るときにだけ許された酒場ネーム、それが吉田マッスグ。その吉田マッスグが東京を中心とした酒場のスペシャリテを紹介。空間、大将、女将、酒、ロケーション……。酒場のスペシャリテは料理だけにあらず!
カウンターにはアクリルボードが置かれ、いまはコロナ前のように飲めなくなってしまったが、吉田マッスグが懐かしの酒場を回想していく。
ゑびす【東京都・西大島】
都営新宿線の大島駅と西大島駅のほぼ中間あたり。ただでさえ、用がなければなかなか降り立つことのない両駅(失敬!)のどちらからも5分ほど歩いて辿り着く酒場である。新大橋通り沿いに佇む店は、間口いっぱいに掲げられた暖簾が、古き良き下町の昭和酒場の雰囲気を漂わせている。引き戸を開けると、この立地だからこそ漂わせることができる、地元の飲兵衛で賑わうローカル感いっぱいのコの字カウンターが出迎えてくれる。カウンター内で切り盛りする女将も、もともと持ち合わせた気質なのか、百戦錬磨の飲兵衛に鍛えられたのか、良くも悪くもドライなもてなしがハマり、こうした酒場にはよく似合うと、妙に納得してしまうのである。そんな酒場の雰囲気に、『ゑびす』の酒肴がまたどハマリする。特別なメニューではなく、気を衒わず、地に足がついたつまみは、地元の酒呑みが毎日でも通える価格とメニュー数を実現している。下町の定番、焼酎ハイボールは300円。かち割り氷とレモンを浮かべた姿は実にいい眺めだ。肴はカウンターから少しだけ覗ける厨房で作手りされているのもよく分かるし、刺し身から南蛮漬け、ポテサラ、どじょう丸煮、肉どーふまで、豊富なレパートリーで酒飲みの心をぐっと鷲掴みにするのである。隠れた名酒場と呼ぶにふさわしい一軒である。
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