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奄美を恋し、奄美に愛された画家 田中一村

田中一村(たなかいっそん)という画家をご存知ですか?

私は奄美出身であるにもかかわらず、田中一村について「奄美の絵を描いていた画家で、一村の描いた絵が黒糖焼酎のラベルになっていたなぁ…」と、なんとなく知っている程度でした。奄美に唯一ある美術館「田中一村記念美術館」は2001年にオープンし、今や奄美の観光スポットの一つになっています。

この「田中一村記念美術館」には私も10年ほど前に一度訪れたことがあります。夫の家族が初めて奄美大島に来た際に観光の一つとして訪れたのですが、その当時は絵画や芸術にあまり興味がなく、こんなモダンでおしゃれな建物が奄美にできたんだ!すごーい!!と、田中一村の絵画よりも施設の方に感動したのを覚えています。「日本のゴーギャン、田中一村」と書かれていても、ゴーギャン?名前は聞いたことあるけど、何した人だっけ??ぐらい美術に疎いんです。

それぐらいほぼ何も知らない私だったのですが、今回この田中一村に関する記事を書くにあたって色々調べていく中で、田中一村の魅力にどんどん引き込まれていきました。今回は私が感じた田中一村の魅力を皆さんにお伝えしたいと思います。

清貧を貫く田中一村の生き方

田中一村を調べる中で、彼の「信念」や「生き方」に私は一番感銘を受けました。

一村のような美術館が建てられるような「画家」というと、数々の有名な作品展で賞を獲り評価され、高額で作品が売れるようになり優雅に自由に絵を描く生活を送っている…そのような姿を想像する方が多いのではないでしょうか?

田中一村もそのような人生を送っていた画家の一人だと思っていたのですが、全く真逆の人生を送っていたのです。

田中一村(本名・田中孝)は栃木県出身で6人兄弟の長男として生まれます。幼少時代から絵画の才能に恵まれ、さらには勤勉で秀才でもあり「神童」と呼ばれていた一村。中学卒業後は東京美術学校(現在の東京芸術大学美術学部)に進学し、華々しい画家の人生を歩み始めようとしていた矢先、両親や兄弟3人を早くに亡くし、自身も結核を煩い美術学校を中退します。ここから一村の不遇な人生が始まるのですが、姉の喜美子が人生を捧げ一村の一番の理解者として、そばでずっと支え続けてくれました。

一村はどんなに貧しい生活をしようと「売ることを目的とした絵」を描くことを外道と感じ、自分の描く絵を支持者の好みに合わせることをしませんでした。そのため支持者が離れ孤独にもなっていくのですが、それでも「絵描きは、わがまま勝手に描くところに絵描きの値打ちがある」という信念を曲げることなく、ひたすら自分の信じた絵を描き続けるのです。そして50歳の時に奄美の豊かな自然に魅了され、人生の集大成となる絵を描くために奄美に移住します。この時も姉が一村の背中を押してくれました。奄美では紬工場の染色工として働きながら5年かけて絵を描くための資金を貯め、3年間絵を描くことだけに集中するという生活を送っていました。染色工の賃金は日給450円と当時の都市部の学生アルバイトよりも低賃金だったそうですが、それでも一村は「貧乏でないといい絵が書けない」と絵のために清貧を貫く生活を送っていました。

一村ほどの才能がある画家なら、支持者の好みに合わせた絵を描くことによって援助を受け、その上で自分の絵を描くという方法もあったと思うのですが、どんな状況でも自分の信念を曲げることなく愚直に絵と向き合う姿は、命を燃やすように絵を描いているようで、私に鮮烈な印象を残しました。このように一村が自分の絵の道を邁進できたのも姉の献身的な支えがあってこそだと思います。一村と喜美子の姉弟の絆もまた人々の心を打つのです。

一村の描いた奄美

このような一村の背景を知り、「あの時ちゃんと絵をしっかり観ておけばよかった…改めて一村の絵をしっかり観たい!」と思いました。「この記事を書く前に美術館へ行って、自分の目でしっかりと一村の作品を観てから記事を書きたかった」というのが正直な気持ちです。

今は画集などでしか一村の絵を観ることができないですが、改めて一村の絵を観て感じたことは、一村の描いた奄美はとても柔らかい世界だということです。描かれているモチーフ一つ一つが自ら優しい光を放っているような印象を受け、一村の繊細さを表しているように感じました。

私の中にある奄美は、太陽のギラギラとした眩しい光に照らされて全てがエネルギーに満ち溢れているポジティブな「陽」のイメージが強いのですが、一村の絵には逆光から見るような光景や少し薄暗い奄美の森の中のような光景も多く、どちらかというと「陰」の部分が多いような気もしました。一村のこれまでの背景を知ると、1人孤独に絵を描く生活を送っていた一村の寂しさが表れているようにも感じます。

一村は奄美の様々な植物や鳥、魚、虫を描いているのですが、どれも葉脈や花びら、魚の鱗に至るまで全てが丁寧に描かれており、見た瞬間思わず「わぁ…」とため息が出るほどです。美術に疎い私ですが、すごい絵だということが分かります。コロナが落ち着いて奄美へ帰省できた際には必ずまた田中一村記念美術館へ行き、一村の描いた奄美はもちろんのこと、奄美へ来る以前の東京や千葉時代の絵画もじっくり観たいと思っています。

一村の足跡を巡る

美術館には一村が撮っていた写真も展示されており、一村が奄美で何に興味を持っていたのかを知れます。中でもアダンやソテツをよく撮っており、詳しく観察していたのが分かります。実際に一村が描いた絵には特にアダンがよく描かれているのですが、一村がアダンを写生した地として奄美市笠利にある「あやまる岬」の敷地の中に「田中一村写生の地」という記念碑が建てられています。この「あやまる岬」にはアダンの群生があり、奄美の美しい海とアダンという一村の絵画のような美しい景色も楽しめます。

また「田中一村終焉の家」として、一村が亡くなるまで住んでいた借家が当時の姿のまま移設され残っています。石碑と共に残っている古家は、外観だけですがいつでも見学することができます。

美術館では作品を観るだけではなく、ゆったりとお茶ができるカフェや一村の絵画のポストカードなどグッズを販売するミュージアムショップもあり、お土産を購入するのにとてもいいスポットとなっています。実際に私もアートの仕事をする友人へお土産を購入したこともあり、とても気軽に行ける場所です。

※現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、ミュージアムショップ及びカフェは臨時休業しているのでご注意ください。

島人にとって一村とは

昭和52年に一村がこの世を去り、その2年後に島内で遺作展が開催され、それをきっかけに少しずつメディアで取り上げられるようになり「画家・田中一村」の名が日本中に知れ渡ります。そして2001年に田中一村記念美術館がオープンし、一村が注目されるようになったのはここ40年ほどのことですが奄美を象徴する1人の画家として島では定着しています。一村の命日9月11日には、「一村終焉の家」がある地区の有志たちが集い「一村忌」という一村を偲ぶ催しが毎年開かれており、地元の人たちが大切にしていることが分かります。

また島内では毎年「田中一村記念スケッチコンクール」を開催しており、奄美群島内の小中学生が奄美の自然や生活、行事などを描き、毎回約1,000点を超える作品が集まります。昨年からは一村の功績を次世代に伝えるため「一村キッズクラブ」も発足しており、地元の子供たちがスケッチを学んだり、一村の散歩道を歩いて自然観察する活動なども行われています。

私は一村の美術館がオープンした2年後には上京したので、島を離れていた約20年ほどの間にここまで「田中一村」が島人に定着しているのを知りとても驚きました。一村を後世に伝えていくため、このような活動が広がっているのも島人の「結」の精神があってこそだと思います。一村が実際にいた頃はまだ奄美は閉塞的なところもあり、人付き合いが苦手な一村はなかなか受け入れられず特に苦悩したと思いますが、今はこのように島人に受け入れられ奄美でとても大切な存在となっておりとても嬉しく思いました。

今年に入り、一村の近所に住んでいた人の自宅から当時一村に描いてもらったという肖像画が新たに4点見つかり、奄美では大きな話題となりました。このようにまだ見ぬ新しい作品がこれからも見つかり私たちを楽しませてくれるかもしれません。

改めて「画家・田中一村」のことを知り、美術館だけではなく一村とゆかりのある場所を巡り、一村の見た奄美を知りたいと思いました。私もまだ知らない新しい奄美に出会えるようでとてもワクワクします。ぜひ奄美に訪れた際には、定番の観光コースだけでなく一村の足跡も巡ってみてはどうでしょうか?一味違った奄美が見えてくるかもしれません。

次回は一村が魅了され描いた奄美の豊かな自然について紹介します。

文:佑美 イラスト:Yu Ikari

—展覧会情報—

展覧会「田中一村展 奄美へとつづく道」

会期:2021年5月8日(土)~6月6日(日) 会期中無休
会場:美術館「えき」KYOTO(https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/)
住所:京都府京都市下京区烏丸通塩小路下ル東塩小路町 京都駅ビル内ジェイアール京都伊勢丹7階隣接
開館時間:10:00~19:30(入館締切は閉館30分前)
入館料:一般 1,100円(900円)、 高・大学生 900円(700円)、 小・中学生 500円(300円)
※内容は変更となる場合があります。最新情報は美術館ホームページでご確認ください
【問い合わせ先】TEL:075-352-1111 (ジェイアール京都伊勢丹大代表)

Information

田中一村記念美術館


住所:鹿児島県奄美市笠利町大字節田1834
web:http://amamipark.com/isson/
営業時間:9:00〜18:00(7月・8月 9:00〜19:00)
※いずれも入館は閉館30分前まで
※現在ミュージアムショップ、カフェチェーロは臨時休業中です。
定休日:毎月第1、第3水曜日(祝日の場合は翌日)
電話:0997-55-2635

あやまる岬観光公園

住所:鹿児島県奄美市笠利町大字須野682
営業時間:あやまる岬観光案内所 9:30〜17:00
     みしょらんCafe 9:30〜17:00(オーダーストップ16:45)
定休日:年末年始 ※荒天時は臨時休業する場合があります。
電話:0997-63-8885

田中一村終焉の家

住所:鹿児島県奄美市名瀬有屋38番地3、4
電話:0997-52-1111(奄美市紬観光課)
※見学できるのは外観のみです

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