前回の ワインの醍醐味は香りにあり(前編)では、
・疑問1:ワインによって香りに違いがあるのはなぜ?
・疑問2:自分で香りを認識できないのはなぜ?
というふたつの疑問についてお話しました。今回はその続き。三つ目の疑問「ワインの香りは色々なものに例えられるけれど、例えが独特すぎてイマイチピンとこないのはなぜ?」について触れた後に、「ブドウ品種や醸造方法ごとの特徴的な香り(覚えておくと便利な “最低限の香りの特徴”)」をお伝えします。
疑問3:ワインの香りは色々なものに例えられるけれど、例えが独特すぎてイマイチピンとこないのはなぜ?
レストランのワインリストやネットショップの商品詳細などには、そのワインの特徴が書かれています。そこから香りや味わい、造り手の想いなど、様々な情報を読み取って、自分好みのワインを探すわけです。
しかし、こと香りに関しては、私たち日本人に馴染みの薄い表現がずらっと並ぶことが多くあります。例えば、ラズベリーやブラックベリー、スミレ、アカシア、なめし革、腐葉土、甘草(リコリス/彼岸花)、etc…。なぜこんなに “わかりにくい” 表現が多いのでしょうか。
そのわけはズバリ、ワイン関連用語やマナーはフランスを中心に形成されたという歴史があるからです。
立役者になったのはイギリスです。その昔、世界の覇権を握っていたイギリスでフランス(特にボルドー地方)のワインが大流行したのをきっかけに、フランスワインは世界中に広まり、権威が上がっていきました。その後もどんどんフランスワインのブランド化が進み、ワインの最高ランクに君臨するのはフランスワイン!というイメージが定着しました。結果、ワインを知る=フランスワインを知ることになり、フランス人の感性に基づいて言語化された香りの表現が世界中で使われるようになりました。
先ほど例にあげた甘草(リコリス/彼岸花)なんかは、一般的な日本人には非常にイメージしにくい香りですが、西洋文化圏ではごく慣れ親しんだ香りなのだとか。私の帰国子女の知り合いは「幼い頃からよくリコリスのキャンディを食べていた」と言います。彼女は日本人ですが、子供時代を外国で過ごしたので、リコリスの香りをありありとイメージできるそうです。多くの日本人が昆布出汁と鰹出汁をかぎわけられる一方、外国人には難しい……というのに似ていますね。
ソムリエになる人はこういった馴染みのない香りをも覚える必要があります。有名なワイン漫画では、主人公がが幼い頃から木の枝やなめし革をかじって香りを覚えさせられる描写があり、読んだ時は「なんて大変な世界なんだ……」と驚嘆しました。
ブドウ品種や醸造方法ごとの特徴的な香り(覚えておくと便利な “最低限の香りの特徴”)
馴染みのない香りを全て覚えるのは、私たち一般消費者にはあまりにハードルが高すぎます。そこで、「これだけ押さえておけばおおよそ好みのワインの香りを表現できる」というラインをせめるのがおすすめです。
中にはイメージしにくいものがあるかも知れませんが、香りに関する表現を共通言語で伝えることができれば、レストランやワインショップで的確にオーダーできるようになります。ある程度は記憶勝負です。
ピンとこないものがある場合は、次回ワインを飲む機会にここに書かれた香りを意識してみてください。すると、案外それまで全く感じたことなかった香りを認識できるようになります。香りってそういう側面があるんです。面白いですよね!
赤ワインの香り
▶︎黒い果実の香り(ブラックベリー、ブルーベリー、カシス)
重厚感のある、いわゆる “フルボディ”なワインの香り表現として使われます。ブラックベリーの香りはよくわからなくても、スーパーでよく売られているブルーベリージャムの香りはわかりますよね。あれをイメージしてください。カシスリキュールのカクテルをよく飲む方はカシスもイメージしやすいかもしれませんね!「黒い果実の香りが好きなので、そういうワインをお願いします」と言えば、ブルーベリージャムのような芳醇な風味の強いワインが出てきます。
【具体的には】
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー/シラーズといったブドウ品種を主体に造られるワイン。渋みの強いワインが多いのも特徴的。
▶︎赤い果実の香り(イチゴ、ラズベリー、クランベリー)
軽やかで華やかなな、いわゆる “ライトボディ”なワインの香り表現として使われます。有名な「ボージョレ・ヌーボー」の香りを表現するときにも、「赤い果実の香りが華やかで……」なんて言うことがしばしば。赤い果実の香りとは、言い換えると「甘酸っぱい印象の香り/酸味がたっているフレッシュな香り」です。渋くて飲みごたえのあるワインよりも、酸味のあるいきいきとしたワインが好みという方には、赤い果実の香りがするワインがおすすめです。
【具体的には】
ピノ・ノワール、ガメイ(ボージョレ・ヌーボーに使われる品種)、マスカット・ベーリーAといったブドウ品種を主体に造られるワイン。 “キュートでチャーミング”なんて表現するソムリエもいます。
▶︎スパイシーな香り(コショウ)
不思議なもので、ブドウしか使っていないはずのワインからなぜかピリッとスパイシーなコショウの香りが漂ってくる場合があります。そんなとき、そのずばり “スパイシーなワイン”なんて表現を使うのです。この香りの正体はある種類のブドウに含まれる “ロタンドン”という成分です。ロタンドンはコショウにも含まれている成分。ブドウとコショウ、全く異なるものなのに、同じ香り成分を含んでいるなんて、面白いですよね。
【具体的には】
オーストラリアのシラーズ、フランスのシラーなどが有名です。お肉料理との相性が良いワインなので、お肉好きな方には「スパイシーなワイン」がおすすめです。
白ワインの香り
▶︎ハーブの香り(青々とした香り/ジャコウの香り)
白ワインで有名なブドウ品種、ソーヴィニヨン・ブランに顕著に感じる香りです。ハーブといっても、バジルやローズマリーなどのピリッと感じる香りとは少し違います。芝生を踏んだ時の香り……と言った方が近いかもしれません。この香りは “ジャコウ(麝香/ジャコウネコから取る香料)”や “猫のおしっこ”なんて表現されることもあります。そう言われると、あまり美味しそうではありませんね。ただ実際は食欲をそそる素敵な香りです。料理にアクセントをつけてくれます。
【具体的には】
前述したソーヴィニヨン・ブランの中でも、特にニュージーランド産のものに強く感じます。この香りはレモンなどの柑橘系の香りとセットで感じることが多く、魚介系の料理に合わせやすいタイプです。
▶︎酵母の香り(パンの香り)
白ワインを飲んだあと、鼻に抜ける香りにパンのようなニュアンスを感じることがあります。パンはパンでも、トーストしていない食パンのような香りです。これはワインの発酵に使われる酵母の香りです。パンもワインと同じく、酵母(イースト)によって発酵しているので、似た香りがするのにもうなずけますね。旨味を伴う香ばしい香りで、様々な料理との相性がばっちり!特に和食に合わせやすい香りです。
【具体的には】
日本が誇る甲州や、高級ワインの代名詞シャンパーニュに強く感じます。熟成が進んだワインにも現れることが多い香りです。
▶︎花の香り(ジャスミン、アカシア、スミレ)
ワインの香りの中でも、日本人が理解しにくいのが花の香りです。私も、ワインの勉強をする中で花の香りを理解するのが一番苦手でした。比較的わかりやすいのはジャスミンでしょうか。わかりにくいのになぜ押さえておいた方が良いかと言うと、色々な場面でめちゃめちゃ登場するからです。「このワインは華やかな白い花の香りがして……」なんて使われ方をします。しかしとにかくイメージしにくいので、花の香りに出くわしたら「華やかで甘い香り」と置き換えてみてください。小学生のころ、よく道端のツツジの花を摘み取って蜜を吸っていましたが、そのツツジの蜜の香りです。同じ経験のある方ならわかるはず……!
【具体的には】
リースリング、シャルドネなどの白ワインの香り表現としてよく使われます。
▶︎果物の香り
少し乱暴に “果物”とまとめてしまいましたが、様々な種類があります。以下によく言われるものを書き出しますので、参考にしてみてください。
・りんご・・・リースリングなど、酸味がシャープなワイン
・桃・・・シャルドネなど、華やかなイメージのワイン
・メロン・・・甘い香りの強いワイン
・トロピカルフルーツ(パイン、マンゴーなど)・・・南半球などの暖かいエリアで造られる、比較的糖度の高いワイン
「このフルーツの香り、好きだな〜」と思うものをピックアップして、該当するワインを選ぶとお気に入りの1本に出会える確率が高まります。ぜひお試しください!
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