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梅雨の食卓を明るく照らす気取らない赤ワイン(四恩醸造「カサブランカ」)

わが家は夫婦二人暮らし。二人ともワインには目がないタイプで、毎晩その日の気分や献立にあわせてワインの栓を抜いています。

その日は朝から雨が降っていて、梅雨の憂鬱さが空気に溶け込んだような1日でした。こういう日には食卓をぱっと明るく照らしてくれる、軽やかで華やかな赤ワインが飲みたくなります。さらに、洗練されたラベルデザインで見た目にも楽しませてくれたら言うことなし。そんなことを考えながら家庭用ワインセラーを物色していると、可愛い花のモチーフのワインに目が留まりました。少し前にラベルに一目惚れして購入した日本ワインです。描かれている明るい色合いの花が鬱々とした気持ちを吹き飛ばしてくれる気がして、その日の食卓に並べることにしました。

食卓を彩る軽やかな赤ワイン、カサブランカ

販売価格はとてもリーズナブル(1,300円ほど)

ワイン名のカサブランカとは、ユリ科に属する花の名前です。大きくて真っ白な花びらと豊かな甘い香りが特徴的な花。ちょうど今の時期、6月〜7月に見頃を迎えます。ラベルに描かれているのもカサブランカの花の絵です。

グラスに注ぐと透き通った明るいルビー色。鼻を近づけると、甘い“キャンディフレーバー”(綿菓子のような香り)とフレッシュなぶどうの香りが混ざり合いながら鼻腔をくすぐります。口に含めばほんのり甘くチャーミング。同時に、心地よい酸味とほんの少しの渋みを感じさせながら喉へと落ちていきます。求めていたような、軽やかなワインです。

一方で、後味にはなんとも香ばしい風味を感じます。「何かに似ているね」としばらく二人で頭をひねった後ひらめいたのが、カスタードクリーム。この風味が、ワインの華やかさを増幅しています。軽い飲み口だけれど、それだけでは終わらない。まさにカサブランカの花の甘美な香りに通じるような余韻を感じました。

カサブランカの生みの親、四恩醸造

「もう1杯飲みたい、おかわりしたくなるようなワインを目指しています。」

そう語るのは、カサブランカを生産するワイナリー、四恩(しおん)醸造の瀬野宗(せのたかし)さんです。瀬野さんは現在、山梨県にある牧丘町という場所で、カサブランカをはじめとする6種類のワインと、100%ぶどうジュースの生産に携わっています。

始まりは、瀬野さんのお父さまが立ち上げた乳幼児向けの学校法人でした。保育園や幼稚園の運営です。そこに通う子どもたちの教育に熱心に向き合っていたある時、牧丘町の名産品である巨峰の美味しさに感動したお父さまは「子どもたちに豊かな自然と触れ合う機会を提供したい、そして美味しい巨峰を食べさせてあげたい」という強い想いで、牧丘町に巨峰畑を所有しぶどう園を開園しました。ぶどう狩りを楽しみながら自然と触れ合うことができる環境を用意したのです。

このように、子ども向けの自然教育施設からスタートした四恩醸造が、なぜワインを造るようになったのでしょうか。

最大の目的は食卓を豊かにすること

「せっかくぶどうを育てても食べきれないことが増えました。そう簡単には市場にも卸せないので、無駄になってしまうんです。子どもたちに食べ物の大切さを教えている立場上なんとか無駄をなくす方法はないかと考え、ぶどうをジュースに加工してみたんです。これが子どもたちに大好評で、そこからぶどうジュースの生産が始まりました。その後、子どもたちと一緒に食卓を囲むお父さん、お母さん向けにワインを用意してはどうかということで、ワイン造りを始めました。」と瀬野さん。

子どもたちはぶどうジュースで笑顔に、大人たちは美味しいワインで笑顔に。四恩醸造が造ろうとしているのは単なる飲み物ではなく、笑顔が溢れる食卓なのだと言います。「美味しいワインを造りたい」という想いは“食卓を豊かにする”という情熱に支えられていたのです。

この哲学は、四恩醸造が造るワインのラベルデザインにもつながっています。

テーブルに映えるラベルデザイン

カサブランカ以外のワインのラベルにも、花の絵があしらわれています。思わず食卓に置きたくなるようなテーブルに映えるデザインを模索した結果、花瓶に生けた花を連想させるモチーフにたどり着いたのだそうです。目で見て楽しむことも“食卓を豊かにする”ことにつながるからです。どのラベルにも共通して油絵タッチの花の絵が描かれており、ひと目で四恩醸造のワインだとわかります。

これらの絵の作者についてたずねると、瀬野さんは笑いながらこたえてくれました。

「絵の作者は二名いるのですが、実は二人とも関係者なんです。薔薇、向日葵、マーガレットの絵を描いた方は学校法人立ち上げ当初から理事として関わっていました。牧丘出身の方で、ワイナリーにもゆかりがあります。素敵な油絵を描く方なんですよ。その他のラベルの絵は、実は私の姉が描いたものなんです。カサブランカの絵もそうです。“希望”というワインのラベルには花束が描かれているのですが、姉の結婚式で用意したブーケをイメージしています。描かれている白いガーベラの花言葉の“希望”を、ワインの名前にしました。」

その話を聞き改めてボトルを手にとって眺めると、優しい温もりを感じずにはいられません。

カサブランカ誕生の秘密

ワイナリーによって目指すワインの味わいは異なりますが、四恩醸造が最も大切にしているのは「もう1杯飲みたくなるような、綺麗な味わい」なのだと言います。そのために原料となるぶどうの品質には妥協せず、丁寧な醸造を心がけているのだそう。特にこだわっているのは“オリ抜き”という工程です。簡単に言うと不純物を取り除く作業なのですが、これをしっかり行うことでワインの香りや味わいが洗練され、“綺麗な味わい”に近づくことができます。このようなこだわりによって、四恩醸造のワインの個性が創られているのです。

ここで、カサブランカの醸造のポイントについて伺ったところ、瀬野さんはその誕生秘話について語ってくれました。

「実はもともと、カサブランカを造る予定はなかったんです。カサブランカは“プレスランジュース”と呼ばれる、ぶどう果実をプレスして(圧力をかけて)得られる果汁から造られているのですが、プレスランジュースには苦味が強めに出てしまうことがあるので、単独で醸造する予定はありませんでした。ただ、プレスランジュースであっても無駄にしてしまうのは四恩醸造の哲学に反しますので、何とか美味しいワインができないか試行錯誤をしてみました。そうして出来上がった試作品を東京の中目黒にあるQ.E.D.CLUBというレストランのソムリエに試飲してもらったところ、美味しいと太鼓判をいただいたんです。長期熟成向きではないものの、リーズナブルで気軽に食卓に並べることができる美味しいワインとして商品化しました。」

プレスランジュースの取り扱いについても、ワイナリーによって考え方が異なります。「フリーランジュース(圧力をかけずにぶどう自体の重みで自然に流れ出る果汁)の方が質が高い」と評する人もいますが、プレスランジュースには“コク”や“味”の元となる成分が豊富に含まれているのも事実。私が感じた“カスタードクリームのような後味”も、もしかするとプレスランジュースに由来しているのかもしれません。

カサブランカを美味しく味わうおすすめメニュー

カサブランカをより美味しく味わうためのメニューとして、四恩醸造の公式サイトでは天ぷらやチーズのパスタ、サングリアが紹介されています。

サングリアのお薦めレシピについてうかがうと、「サングリアは適当に作っても美味しくなるのが魅力的なので、気張らずにいろいろ試してみてください。ただ、私はレモンやライム、桃なんかを入れるのが好きです。そこにほんの少しカシスリキュールを入れると、味に深みが出るのでおすすめです。」と瀬野さん。これはぜひ試してみたいものです。

わが家ではマグロのカツレツにハニーマスタードを添えたメニューにカサブランカをあわせたところ、食卓に響く「美味しい!」の声のボリュームがひときわ大きくなりました。「赤ワインには赤身の魚が合う」という話は有名ですが、これほどマッチする組み合わせに出会ったのは初めてです。

そのことをお伝えすると、栄養士の資格を持つ瀬野さんがこう解説してくれました。「マグロに含まれるアミノ酸や衣の油、ハニーマスタードのまったりとした味わいがワインの苦味や渋みを和らげ、ワインの持つ果実味をより豊かに感じられるようになり、料理との相乗効果でより美味しく感じられたんだと思います。」皆さんもぜひ、カサブランカと共にお試しください。

こちらのレシピもオススメ

カサブランカはチーズパスタとの相性がバッチリ。Le Monde Fantastiqueでご紹介した“カチョエペペ”とのペアリングもオススメです。

最後に

今後のワイナリーの展望についてお伺いすると、瀬野さんはこう言いました。

「初心を忘れず、食卓を豊かにするようなワインを造り続けていきたいです。そして、日本ワインは日本の食卓に合うということをもっと広げていきたいです。」

食卓を明るく照らし、梅雨空のせいで沈みがちな気分を華やかに盛り立ててくれたカサブランカ。“食卓を豊かにする”ワインとの出会いは、わが家に晴々とした笑顔をもたらしてくれたのでした。

ワイナリー紹介

家族の時間を大事に-。私たち「四恩醸造」(しおんじょうぞう)は、横浜にある幼稚園の自然教育施設として2007年に誕生したワイナリーです。山梨県牧丘町の甘くて美味しい巨峰を“自然からの贈り物”としてご家庭やレストランに届けております。食卓を華やかに彩り、家族と楽しいひとときを-。そんな思いで日々、日本産ワインを追求しております。

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